発達障害と英語指導~配慮が必要な子どもへの指導の工夫

発達障害と英語指導~配慮が必要な子どもへの指導の工夫

メール登録すると、新着の英会話講師や英語を教える仕事の求人情報をいち早く受信できます

配信は平日7:00ころ
いつでもワンクリックで解除できます
Hotmail/Outlook/Live.jp以外のアドレスで登録ください

発達に特性を抱える子どもたち(発達障害/グレーゾーン)

英語指導をしていると、先生側に工夫や配慮が求められるような子どもたちに出会うことがあります。
現在では、「発達障害」という言葉がよく知られるようになりました。

発達障害をもつ子どもの多くは、本格的な集団生活が始まる小学生時代に困難を感じ始めます。
先生や保護者が「おや?」と気になり始めるのもこの頃です。

ですが、こうした子どもたちのすべてが専門医の診察を受けるわけではありませんし、受診したとしても診断名がつかないケースもあります。

学校では発達特性を持つ子どもたちへの合理的配慮が義務になっています。
しかし、民間の英語教室などでこのような子どもたちに出会ったとき、先生が出来る対応にはバラつきがあるのが現状です。

民間の英語指導現場では、診断名よりも「指導の工夫」に着目

私たちが直接子どもたちと関わる「英語指導」という場面では、診断名や発達障害があるかどうかに着目することは重要ではないと考えます。

むしろ、その子が何に困っているか、どうすれば学習しやすくなるかという「環境の整備」や「指導の工夫」に焦点を置いた方がよいでしょう。

その観点から、この記事では発達障害そのものではなく、英語学習に困難さを感じている子どもたちにも安心な英語指導のあり方を考えていきたいと思います。

子どもが英語を難しいと感じるときって?

大人にとっては何でもないようなことでも、子どもたちはつまずくことがあります。
今までに以下のような点で、他の子どもたちに比べて著しく困難な子どもたちに出会ったことはありませんか?

*アルファベットを覚えられない、書けない
*音声をリピートできない
*単語が読めない、スペルが覚えられない

このような困難を抱えている子供たちも、少しの工夫で学習を進めることは可能です。
このような子どもたちが無理なく進められる英語レッスンは、どんな子にとっても安心して受けられるレッスンと言えます。

ここからは、それぞれの指導時に講師側ができる工夫点についてご紹介します。

アルファベットの読み書き時にできる工夫

(1)文字の形を認識させる

アルファベットの大文字に幼いころから親しんでいても、小文字は小学生になってから、そして多くは小学3年生のローマ字の授業で身につけると思われます。

小文字には”b/d”や”p/q”、”n/h/r”など形が似ているものが多く、背の低い文字、高い文字、ぶら下がっている文字といったように4線に書く際の場所もまちまちです。

そこで、小文字を導入する際には「小文字の背の高さには3種類あるんだな」と認識してもらうための活動が必要になります。

子供によって得意とする感覚が違うため、様々なアプローチで形を認識させることで、何かのアプローチがその子供にとって手助けになるかもしれません。

形を触って認識

市販でも文字の形をくりぬいたアルファベットセットがありますが、手触りで認識できるタイプの子どもでしたら、紙やすりなど、ざらざらした触感の素材でアルファベットの形を準備し、手や指で形を認識してもらいます。

目で認識

カードで示された文字をアルファベット表から見つけて指でポイントしてもらいます。

体を使って認識

小文字の高さの違いを、「tall letterは立つ」「short letterはイスに座る」「tail letterは床に座る」などの動作で表現するアクティビティをリズミカルに行います。

形を作って認識

工作用のモールを使ってアルファベットの文字の形を作ります。

関連する絵で認識

覚えにくい文字は、その文字を使って絵を描くとイメージで定着することが出来ます。
例えば、rabbitの“r”を定着させるためにウサギの体の一部を”r”を使って描く、などが考えられます。

rabbit

horse

(2)アルファベットを4線に書く

4線のどこに文字を書くかは混乱しやすいポイントです。
子どもがわかりにくい様子でしたら、中心となるスペースに薄い水色のマーカーなどで示してあげるとよいでしょう。

マーカー

(3)フォントに気をつける

教材のフォントに気をつけます。
実は子どもたちにとって一般的に印刷物に使用されるフォントの中は”a”の表記もいろいろです。
手書きの文字と異なるために混乱の原因となることがあります。

現在では教科書などで使用されるフォントに配慮がなされていますが、先生が自分で製作する教材にも配慮が必要です。

ちなみに私は「UDデジタル教科書体」や「Comic Sans MS」を使用しています。

音声をリピートさせるときの工夫

少し長めの単語やフレーズ、ましてやセンテンスとなると、お手本の音声を聞いて繰り返すのが大変に感じる子どもがいます。
例えば、Marchは言えても、Februaryは正しく発音できないということがあります。

音節を意識させる

日本語と英語の大きな違いに「リズム」があります。
日本語では「ケーキ」を「ケ・エ・キ」と3拍で発音しますが、英語の”cake”は一音節です。
音節の数だけ机をタップするなどして、英語特有の音節に注目させます。

覚えるチャンツを明確にする

レッスンで導入したチャンツをすべて言えるようになれば大成功ですが、実際には、オーディオと一緒に「ところどころなら言えるかな」という状態で終わる子どももいます。
「この部分を一緒に言えるようにしよう」とターゲットを明確にして指導すると、子どもにも達成感が生まれます。

後ろからリピート

“I’m ten years old.”のようにやや長めのセンテンスが繰り返せず、”I’m…?” のように途中で止まってしまうことはありませんか。
そんなときの練習法として、後ろから順番にリピートしてもらうとうまくいくことがあります。
”old/ years old / ten years old / I’m ten years old.” のようにリピートさせます。

苦手なフレーズでじゃんけん

どうしても覚えられないセンテンスやフレーズはじゃんけんで覚えてもよいでしょう。
例えば前述の例でしたら”I’m ten years old! I’m ten years old! I’m ten years old!1,2,3!” と言ってじゃんけんをします。

正しい発音に固執しない

子どもたちは口も歯も舌も、すべて成長中です。
また、頬や舌の動きがうまくいかず、母国語の発音自体に困難を抱える子どももいます(サ行がシャ行になるなど)。
小学生に発音を指導する際にはポイントをわかりやすく、でもあまりしつこくないくらいがいいと私は考えています。
それよりもしっかり「聴かせる」ことを重視しましょう。

単語の読み書きをさせるときの工夫

スペルが覚えられないというのは、子どもたち共通の悩みかもしれません。
文字が並んでいるのを眺めて自力で覚えられる場合はよいですが、文字と音の認識が弱い子どもの場合、それではすぐに限界が来てしまいます。
フォニックスを意識した指導が必要です。

また、フォニックスを一通り学習し終えたお子さんであっても、ルールが頭の中で混乱しているケースがあります。

例えば”ea/ee”で間違う場合は”peach/tea/meat/eat/teacher”などなど同じルールの仲間を集めてイラストや文にして覚えるのがお勧めです。

上記の例であれば”Our teacher likes peach tea and eats meat.”でイメージが膨らみます。

保護者との相談について

保護者からの申し出があったら

レッスン開始時や面談の際などに「うちの子は色の認識が出来ないんです」「うちの子は大きな音が苦手で」などと相談があった場合には、その子に適した配慮を個別に行いましょう。
子どもの特性について伝えてくれる保護者であれば、レッスンでの子どもの様子などもこまめに相談することが出来て、先生も安心です。

保護者から何も相談がないとき

先生から「お子さんは発達障害だと思うんですけど」などと伝えてはいけません。
保護者の中には発達障害に否定的な考えを持っている方もいますし、そもそも診断がつけられるのは専門医だけです。

「レッスン中に席を立ってしまう」など具体的な困りごとがあればその事実は伝えます。
ただ、実際には専門医に早めにつながっておいた方がよいので、教室のお便りなどにさりげなく相談窓口を記載しておくなどしておくとよいと思います。

ちなみに、レッスン中に席を立ってしまう子どもの場合、そのイスの座り心地が嫌だったというケースがあります。
係の仕事(プリントを配るなど)をしてもらうことで落ち着くケースもありました。

子どもたちに関わる職業だから、困り感・苦手感を持つ子どもたちへの寄り添いを

子どもたちにとって、日常的に出会う大人の存在はとても大切です。
周囲の大人が寄り添ってくれた温かい記憶は、その後の人生の原動力になります。
ぜひ、先生たちには困り感・苦手感を持つ子どもたちの灯になっていただきたいと思います。

私は普段のレッスンで困ったことがあれば、甲南女子大学の村上加代子先生のご著書を参考にさせていただいています。
今回の記事に関して、より詳しくお知りになりたい方は、村上先生の「みんなにわかりやすい小・中学校の授業づくり 目指せ!英語のユニバーサルデザイン授業」(Gakken)をお読みください。

なお、こうした特性を持つ子どもたちへの対応は「万能テクニック」ではありません。
あくまでも該当する子どもをよく観察したうえで、対応を工夫されることをお勧めします。

処理待機中のローディング画像

処理中です……